世界の果てで紡ぐ詩

00.

 白大理石の長い回廊を、一人の若者が迷いない足取りで進んでいく。
 白銀と白、青銀と青を基調とした長衣は、この国の神官の証。
 彼は、貴色を身にまとうことの許された高位の神官の一人である。

 若者は長く続く回廊の途中で足を止めると、彫刻の施された重厚な柱を見つめた。
 正確には、柱の影で跪く人物に無感情な瞳を向けた。

 彼の予想が正しければ、その報告は国をも揺るがす大事件に発展するはずのものである。

「報告がございます」

 闇に溶け込んだ男が、挨拶なしに静かな声で告げた。
 しかし若者は男の無礼を咎めることもなく、無言で続きを促す。

 男の頭が、無言の圧力に耐えられないとでも言うように、僅かに下がった。

「星読みの話では、ラクリマがこの世界に現れる兆候があるということです。北で日照りの兆候がありますので……」
「水、だね。北ということはウェレクリールだろうけど、少し範囲が広いな」

 猛禽類を思わせる、薄い金色の瞳が細められる。

 男の背に、冷たい汗が一筋流れた。

 一見自分より年若いこの若者が、簡単にそして無残に命を手の平で遊ぶことを、男は知っている。
 影の部分を支えてきたからこそ、その事実が何よりも恐ろしい。

「様子を見に行かせますか」
「そうだな……いや、やめておこう、僕が行くよ。この件はまだ伏せておきたいからね。それに僕はラクリマに会ったことがないんだ。彼女たちには、契約を結んだ者以外、いかに神官といえど目通りが叶わないから」
「では」
「準備が整いしだい北へ向かう。もちろんその間に、ある程度の場所は絞り込んでおくんだろうね」

 それは絶対的な命令。

 視界にもやがかかったような感覚を覚えながらも、男はなんとか「はい」と頷くと、命令を遂行すべくその場を立ち去った。

 残された若者は一人回廊に佇み、長く続く果てのない闇の先を静かに見つめていた。

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