世界の果てで紡ぐ詩
12.
”アルマ イ ヴェリタ エレスティア ディーレ エスト レギエーラ カーレ――
《魂と真実の下に 女神の言葉で 誓約の祈りを捧げん》”
昼も夜もなく、ただそこに在る沈黙の神殿。
中央メセリアにおいて、そこは何者の侵入も許さず、隔絶された聖域で在り続けた。
その存在を知るのは、ラクリマと聖神官のみ。
隠された神殿に、唯一足を踏み入れることの許された存在。
響く二対の足音に合わせて紙燭の赤みを帯びた炎が揺らめくと、次の瞬間には長く果てない柱廊の先に、『扉』が現れた。選定を受けし者たちを、祝福するために。
静かな暗闇の中で扉の開く音だけが鮮烈な軌跡を残し、厳粛な空気を纏った閉ざされた神殿の内部が露わにされる。
震える吐息はどちらのものだったのか。
それは、畏敬とも落胆ともとれるものだった。
神聖不可侵の絶対聖域と聞かされていた神殿は、しかし想像よりも遥かに小さな空間でしかなかった。
その両端を彩るのは、見上げるほどの丈高い四枚の窓。
五色のステンドグラスがはめられたそれは、この沈黙の神殿がメセリアの調和神殿のさらに奥深くに位置し光の届かぬ場所であることを考えれば、不思議なほど鮮やかな色彩に燃えていた。
だがそれ以外の装飾は、天井の中央にある小さな窓にはめられたステンドグラスを除けば、何もない。
曲線を描く柱ですら、むき出しの木の温もりをそのままに宿していた。
それでも神殿内に息づく圧倒的な存在感は肌を突き刺すがごとく、聖域を汚す者に畏怖させる力を持っている。
足を踏み入れた瞬間に感じた粛然たる思いの覚めぬまま、中央近くまで歩を進めた。
正面祭壇で穏やかな微笑みを浮かべる女神エレスティアと、ステンドグラスに描かれた四種の精霊が見守る中、ちょうど人の背丈ほどの大きさを持つ聖台が静かに横たわっている。
あたかも、祈りを紡ぐ者を待ちわびるかのような静謐を纏って。
促され聖台まで歩を進めると、天井の小窓にはめこまれたステンドグラスから祝福の光が降り注ぎ、これから行われるであろう儀式を想って心が軋みをあげた。
望まぬ儀式に、どれだけの祈りが伴うと言うのだろうか。
聖台の前に頭垂れて跪き、両手の指を組み合わせ祈りをささげる彼女の瞳からは、涙がとめどなく流れ続けていた――
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