白の影 黒の光
10
リオは本日幾度目か知れないため息をついた。
調子が狂う。
自分以外の人間と一緒にいたことがほとんどないので、あの少女にどう接したらいいのかわからない。
原因を突き止めるために館に留まるようにと言っただけで、あんなに感謝されてしまった。「監視者」として当然のことなのに、嬉しそうに礼を言われたのだ。
何かしたいと言われたときも驚いた。考えた末にないと答えたのだが、あまりにも落胆した様子だったので、本当に特にないのだがあったら頼むとつい言ってしまった。
すると少女の落胆の表情が消えて、なんとなくホッとした。
そんな自分にも驚いた。
リオはどうしたらいいのか解らず、戸惑っていた。
本当に、調子が狂う。
またため息をついて、リオは取りあえず考えることを変えた。
今はこんな不毛なことを考えている場合ではないのだ。もっと考えなくてはならない重要なことが他にある。
サリアがなぜ「扉」を開けることができたのか。
彼女には特別な何かがあるのか。それとも、彼女の世界で何か異変が起こっているのか。
二つの世界は太古の昔に隔てられて以降、関わりあうことなく平衡を保ってきた。
やがて時間が経つにつれ互いの世界のことを忘れ、世界が分けられた当時の話は神々の時代の神話として語り継がれるようになった。
世界が分けられて以来、二つの世界で「扉」が開いたことはない。
それだけに、今「扉」が開いたことにはなにか大きな意図があるように思えた。
神々は、再び世界を変えようとしているのだろうか。あの時――人間に絶望して世界を分けた時のように。
リオは窓に足を向け、星一つない虚ろの空を見上げた。
「それこそ不毛な考えだな」
リオは誰にともなく呟いた。
世界の行く末など、気にしても仕方がない。神々の仕業ならなおさらだ。しょせん「監視者」でしかない自分が考えるなど、おこがましい。
そう気をとりなおした。
当面の問題はサリアのこと。「扉」が開いた原因を突き止めて、彼女を元の世界に帰さなくてはならない。
原因を探るとなると、サリアが「扉」を開いた時の状況も聞き出したほうが良さそうだ。
「……そういえば、うなされていたな」
サリアを館に運び込んだときのことを思い出し、リオは唸った。
もしかしたら、直前に何かあったのだろうか。
それが彼女の心を深く傷つけたものだとしたら。
そう思うと聞くことが躊躇われた。
ふと、顔をしかめる。
まただ。
いつもの自分らしくないことを考えている。
サリアと出会ってから、どこかおかしくなっている。
リオは、その日一番深いため息をついた。
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