白の影 黒の光

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14

 謁見の間を出ると、リューイはまっすぐ自室に向かった。午後から取りかからねばならない仕事が山のようにあったが、先程のセレイナの話が気になり、手につかなそうだった。こういうときはボロを出す。だからサボリを決めた。

 少し一人になりたいとまとわりついてくる側近や女官たちをかわし、わざと遠回りをして部屋に戻る。
 ソファーに身を沈め、クッションを枕代わりにごろんと横になる。天井を睨み付けてしばし考えに耽った。

 神の国が興って以来開いたことがないと言われる「扉」を開け、アルスフォルトから消えたサリアという少女。神官でもないのに神殿で暮らしていたという。

 神の国と呼ばれるアルスフォルトにとって、「神殿」は特別な場所だ。神々がこの大地に降り立った最初の場所だからだ。つまり、この世界の始まりといってもいい。世界中の神殿が崇める聖なる地。それが、アルスフォルトの神殿だった。

 そんな場所で暮らしていた少女。なぜかセレイナは彼女のことを話したがらない。サリアが持つという「力」。まさか、それは……「扉」を開く力?


 リューイはふと目を開け、ソファーから起き上がった。窓を覗くと城下に人々が集まっている。人だかりの中央には数人の兵と目立たないように目深にマントを被ったセレイナの姿がある。どうやらアルスフォルトへ向けて出立するようだ。

 どうせろくな収穫はないだろう。
 捜すように命じたものの、リューイにはそのことが解っていた。

 それでも、たった一つの可能性だ。

 もしも「扉」を開いたのがサリアの特別な「力」だとしたら。彼女を使えば再び「扉」を開くことが出来るかもしれない。


 ……願いが、叶うかもしれない。


 リューイはゆっくりと瞼を下ろした。目を瞑るといつでもその光景を思い出すことができた。

 それは、「この世界」で彼しか知らない風景。

 頬を撫でる柔らかい風。
 色とりどりの草花たち。
 そして、その中に佇む――。

 リューイはゆっくりと瞼を上げた。 
 わずかに口角を上げて笑む。

 まったく、どうかしている。
 リューイは自分自身を嘲笑った。
 国のため、民のためでもなく、ただ自分のためだけに王という権力を利用している自分は、最低な男だと思う。自分の本当の姿を知ったら民はどう思うだろう。
 間違いなく自分を笑うのだろう。愚かな王だと。


「それだけで済めばいいけど」


   でも、それでも知ってしまった。あの風景を。


「本当に、最低だよ。僕は……」


 リューイは呟いて、少しだけ悲しそうな微笑みを浮かべた。
 呟きを聞くものは彼以外に誰もいない。


 咎はいつかきっと受けるだろう。
 その覚悟もすでにできている。


 願わくは、その日までの甘美な夢を。
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