白の影 黒の光

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31

 リューイは腕組みをして眉を寄せた。

「面白くないな」

 低い声でそう呟く。誰もが震え上がってしまいそうな声音だ。

「サリアとかいう娘のときには開いたのに、僕の時はだめだっていうの?」

 石の「扉」が答えるはずもなく。
 はぁ、とため息をついて再び「扉」を睨み付けた。

 やはりサリアでないと開かないのだろうか。
 しかし……。

 そもそも、神殿で暮らしていたのなら、今まで何回かはここに来たこともあるのだろう。
 親しくしていたセレイナすらサリアにそんな「力」が備わっていると知らなかったということは、特に今まで何の異変もなかったということ。

 それがあの日に限って開いたというのなら、何か特別な条件が必要なのだろうか。

「国が揺らぐような事態だったから開いた……?」

 だが、それも不自然な気がした。
 神に守られた国という権威があるとはいえ、長い歴史のある国なのだ。その歴史の中で、一度も国が揺れたことがないはずがない。

「結局鍵になるのはサリア、ってことかな」

 リューイの声や表情には落胆の色が浮かんでいる。

 悔しい、と思った。

 目の前に「扉」があるのに、願いが叶うかもしれないというのに、まさかの足踏み状態。成す術もなく、まるで生殺しだ。

「……もう少しで叶えられるかもしれないのに……」

 ぐっと拳を握りしめる。
 あの優しい景色を思い出す。


 ……辿り着きたい。

「……いや」

 辿り着く。絶対に。

「……だてに何ヵ月も思ってないからね」

 リューイは顔を上げた。
 先程の落胆の様子など微塵もない。
 強い決意を映して、「扉」を挑むように見つめた。

 ここまで来たのだ。絶対に諦められない。今さら、後戻りをするつもりなど、ない。

 ここに来るまでに、どれほどのものを犠牲にしてきたと思ってる?

 利用できるものは何でも利用した。権力、富、そして、人間すら。

「戻れるわけないでしょ?」


 不敵に微笑み、一歩「扉」に近づく。

「……必ず手に入れるよ、サリア……。僕の、望みのために」

 それは、強い想い。
 世界を変えてしまうほどの。




 そして、それは起こった。

 窓もない部屋に突然風が巻き起こった。

「な……」

 リューイは目を見開き、後ずさった。

 天窓が開いたのかと思い上を見上げるが、部屋に巻く風でガラスが軋んでいる様子を見ると窓が開いているわけではないらしい。


「何、この風……。どこから……」


 リューイは辺りを見回したところで、はっとした。
 慌てて「扉」に視線を戻す。

 そこには――。

 光が、「扉」の隙間から漏れ出ている。

 風はその隙間から吹き込んでいた。
 石の「扉」は風圧に耐えながら小刻みに震えている。

 まるでいざなうように、ひどくゆっくりと開いていく。

 まさか――。

 リューイは茫然とその光景を見つめていた。


「扉」が、開く。

 
 ようやく、人が一人入り込めるほど開いた瞬間。

 あれほど吹き荒れていた風が、止んだ。

 我に返り、わずかに「扉」から目を離した。ほんのわずかだ。だが、次に「扉」を見たとき。

「なっ……」

 何事もなかったかのように、元の姿を取り戻している。

 辺りを見回しても、異変など何もなかったように静かな空間に戻っていた。

「……今のは……夢……?」

 額に手を当てて呟く。
 そんなはずはない。
 確かに今、目の前で奇跡は起こっていたはず。

 でも、信じられない。
 サリアもいないのに、なぜ「扉」が……。


 リューイは茫然と立ち尽くしていた。
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