白の影 黒の光

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46

 運命は交差した。

 リオとサリアが出会ったように、彼らの出会いもまた、必然なのだ。

 そのことを彼らが知るのは、ずっと先の話。



 アルスフォルトのとある宿屋。
 リオとサリアはその一室に居を構えていた。当面の活動拠点だ。

 リオは、神殿で育ったというサリアは当然そこに帰るものだと思っていたが、サリアはリオについて宿屋に宿泊していた。
 その理由を深く訊ねることはなく、サリアは申し訳なさそうにしながらもどこか安心していた。
 リオもまた、こちらの世界の生活習慣をまったく知らなかったので、正直サリアの存在はありがたかった。


 それに、離れるのが不安だったのだ。

 サリアは帰ることを恐れていた。夢で魘されるほどに。
 そんな彼女を一人にしておきたくなかったのだ。出来ることならば、自分が側にいてやりたいと思っていたリオにとって、この状況は迷惑でもなんでもなかった。

「会わせたい人?」

 首を傾げるリオに、サリアは頷いた。

 こちらの世界に着いて間もない二人は、取りあえず体を休めようとまだ宿の外には出ていない。
 時刻はすでに昼を過ぎ、外から聞こえる人々の声が静かな室内に響いていた。
 この部屋にはリオとサリアの二人しかいない。
 他に話を聞く者は存在しないのだが、何かを恐れるようにサリアは声を潜めた。

「リオさんはこちらの世界は初めてでしょう。ならば私よりもこちらの世界に詳しい方に話を伺ったほうがいいと思います。信用できる人が神殿にいるんです」

「神官か?」

「そうです。この国で今最高位の神官の方です。私が幼い頃から、可愛がってもらったんです」


 サリアの話を聞いて、リオはしばし考え込んだ。
 サリアを信用していない訳ではない。こちらの世界に詳しい者に話を聞くことが出来るのは大いに助かる。
 しかし、その人物は果たして自分の話を信じてくれるのだろうか。

「扉」の向こう側から来たのだ、などと。

 リオは見た目にはこちらの世界の人間とさほど変わりない。
 普通の人間が聞けば、リオの話など御伽噺だと一笑されて終わりだろう。


 それだけではない。
 リオは公に出来ない「扉」の向こう側からやって来た者という立場なのだ。出来るだけ身を隠し、目立つ行動は慎まなければならない。
 こちらの世界に起こっている変化を調べるということは、図らずもこちらの国々の内情にも深く関係してくるかもしれない。

 そんな中で、着いて間もない時期にこちらの世界の人間に協力を求めるのは、少し危険があるように思えたのだ。

 だがしかし、こちらの世界を何一つ知らないリオにとって、協力を仰げる人物に出会えるのは魅力的だ。
 サリアもいるが、彼女は神殿からほとんど出たことがないという話しだし、彼女の力だけでこの世界の実情を知るのは、かなり難しいだろう。そして、それをサリアは自分でよく分かっているようだった。


 ふとリオは目線を上げた。
 考え込んでいるリオを、不安そうに見つめているサリアと目が合う。

 ああそうか。彼女も不安なのだ。それでも、リオのために出来ることをしようとしてくれている。

 なんだか不思議な気分だった。
 こちらの世界に知り合いは彼女一人。それなのに何とかなるような気がしてきた。


 リオは、ふと薄く笑った。
 その表情に、サリアは目を見開いて驚いている。

「そいつの名は?」

 リオの言葉に、嬉しさを滲ませた声で答えた。

「アルスフォルトの神殿最高位の神官様でいらっしゃる、カイン・エリアル様です」



 こうしてまた、歯車が廻って行く。

 運命の名に導かれて、彼らは出会うのだ。

 世界の変革に向かって進んでいるとは気付かないままに。
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