白の影 黒の光
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「本当に平気なのか?」
リオが訊ねると、サリアは恥ずかしそうに笑った。曖昧に返事を返してごまかすと、リオは納得していないようだがそれ以上追及してこなかった。
帰って来てくれて、ホッとした。
捨てられた訳じゃなかった。
不安で、嬉しくて泣いたなんて、恥ずかしくてとても言えない。
「どこに行っていたんですか?」
話題を変えようとサリアが訊ねると、リオは街を散策していた、と答えた。
リオは軍に顔を知られているわけではない身軽な身なので、一人で街を歩いてきたのだという。
地理に明るくないリオは、これからサリアとカインを橋渡しする機会が増えることを見越して、一人でどこにでも行くことができるようにしておきたかった。
いちいちサリアに道案内を頼んでいたのでは、彼女を危険に晒してしまう。その可能性を少しでも消しておきたかったのだ。
「同じような景色ばかりで、分かりにくいな」
顔をしかめるリオに、サリアは笑った。
「どこも石造りで統一していますから」
「宿の近くはどうにか覚えられたが、そのほかは不安だ」
「大丈夫ですよ、そんなに大きくない街ですから、神殿を目印にすればどこへ行ってもおおよその方向は分かります」
「ああ、なるほど」
街並みばかりを眺めていたリオは納得して頷いた。
確かに、少し高い場所に建っている神殿は、アルスフォルトに来て間もないリオにとって一番分かりやすい目印だ。
道に迷っても、開けた場所で神殿を見ることができれば、方角も分かる。
「では午後は別の場所に行ってみよう」
「おひとりで大丈夫ですか?」
サリアは少し不安そうだ。だがリオは、心配ないと頷いて見せた。
「昨日カインと接触した。いつ動きがあるか分からない。時間は有効に使わなくては」
言葉通り、昼まで今後の行動についてサリアと話し合ったリオは、午後になると宿を出かけて行った。
サリアが念のためと作ってくれた地図を片手に、一度広場に出て神殿を眺める。
広場から見える神殿は、少し東を向いている。
「ここでこの角度だと……」
来た道を振り返り、方向を確かめる。
「なるほど、宿に帰るには神殿が西向きに見える方角か」
一人納得し、頷いていると、後ろからトン、と腰のあたりを叩かれた。
「?」
振り返ったリオは、視界の下のほうにゆらゆら揺れている茶色の頭に気づいて視線を落とした。
にっこりと笑う、5歳くらいの少年。
「これあげる!!」
「え?」
リオが戸惑っていると、少年はリオの手にクシャクシャになった紙を強引に握らせて、走り去ってしまった。
少年の姿は角を曲がってすぐに見えなくなってしまい、あっという間の出来事にリオはしばらく茫然としていたが、ふと我に返ると手に握らされた紙を開いてみた。
『16時 セオ橋』
メモの隅には、小さな印が記されている。
その意匠は昨日サリアが持たせてくれた彼女のもので、伝言の主に気付いたリオは、すぐさま宿に戻るべく踵を返した。
「渡してきたよ!!」
息を切らせて戻ってきた少年の頭を赤毛の青年は少し乱暴に撫でた。
「良くやったな。ほら、駄賃だ」
青年が差しだした、菓子の入った紙袋を、少年は満面の笑顔で受け取った。
「ありがと!!」
「また頼むな」
手を振る少年を見送り、青年は広場に目を向けた。
漆黒の髪に宵闇の瞳。
独特の雰囲気をまとった異国の青年が、丁度踵を返して広場を出て行くところだった。
赤毛の青年――ラウルは、ちらりと時計に目をやった。
待ち合わせの時間までまだ三時間ある。
時間になったらどんな言い訳を使って仕事を抜け出すか考えながら、ラウルも来た道を戻って行った。
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