白の影 黒の光

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07


 サリアはベッドに戻り、窓を覗いた。
 窓の外には終わりが見えないほど果てしなく森が広がっている。
 生き物の気配はほとんどない。
 風すら吹いていないのか、森は静まりかえっていた。

「ここが……扉の向こうの世界……」

 サリアはぽつりと呟いた。まだ夢を見ているようだ。つい先程まで絶望と悲しみの中にいたというのに、まるで現実ではなかったかのよう。


 本当に、違う世界に来たのだ。


 外を眺めることに夢中になっていたサリアは、再び部屋にリオと名乗った青年が入ってきたことにも気付いていなかった。


 部屋に入ったリオは少女が振り向かずに窓の外を眺めていることに気づいた。
 リオは眉をひそめた。
 一体何が面白いのだろうか。
 どこまでも同じような景色が広がっているだけだというのに、サリアは熱心に窓に張り付いている。
 ベッドの側まで寄ってもまだリオに気付かない。

 サリアの頭越しに同じように外を眺めているが、変わったところなどない。
 いつものように木々さえざわめかない不気味な森の風景しかない。
 長くこの森に住む自分にとっては、珍しくもないいつもの景色だ。


 リオは思わず訊ねてみた。

「……面白いのか?」

 すると、飛び上がらんばかりの勢いでサリアが振り返った。

「リ、リオさんっ」
「外には森しかない」


 不思議そうにしているリオに、サリアは慌てて居住まいを正した。


「あの、夢みたいで……。まさか本当に『扉』の先の世界に来られるなんて……」


 恥ずかしそうに俯いて答えると、リオの表情が僅かに厳しいものに変わった。


「サリア、といったな」


 リオの硬い声音に、サリアは顔を上げた。


「ここがどこなのか解っているのだろう」
「はい」


 知らず、声に緊張が混じる。


「ここはお前達の世界でいう『扉』の向こう側の世界だ。『扉』を開かないと来ることは出来ない」


 リオは腰に下げていた鍵束を外した。


「そして『扉』はこの『鍵』がなければ開くことは出来ないはず。しかし……お前は『鍵』を使わずに『扉』を開いた」


 リオは鍵束を戻してひた、とサリアを見つめた。
 金縛りに遭ったかのように身動きができなくなる。


「お前は……一体何者だ?」


 低い声で問う。
 しかし、サリアには答えることが出来ない。


 あの時、違う世界に行きたいと強く想った。
 裏切られたことを信じたくない。
 あの人が国を壊していく様を見ていたくない。
 その一心で「扉」に触れた。すると、まるで「扉」がサリアの想いに応えるようにひとりでに開いたのだ。
 サリアを誘い込むように、輝きながら彼女の目の前に光があふれた。


 そして、次の瞬間には光の中に飛び込んでいた。


 自分は何者なのか。

 それが、サリアにすら解らなくなっていた。
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