白の影 黒の光

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11


 「扉」の国が堕ちた。


 玉座で部下から報告を聞いた青年は満足そうな笑みを浮かべた。

 永きに渡って「扉」を守り続け、神々が降り立った地として崇められてきた神の国を、とうとう我が物としたのだ。

 近隣他国との同盟により堅固に守られていたため、どう攻めるか考えあぐねていたが、かの国が奉ってきた神々はどうやら我々に味方したらしい。

 国を司る神官を抱き込み、内側から情報を流させる。あとは簡単だった。同盟国の警備が手薄になる時間帯に攻め込むだけ。面白いほどあっという間に国は堕ちた。


 何が「神の国」だ。

 青年は鼻で笑った。

 本当に神がいるのならば、神を奉ってきたあの国はなぜ護られなかった?

 神など信じない。
 信じるのは己の力のみ。 
 己だけを信じてきたからこそ、彼はこの国の王になれたのだから。


 唇に薄い笑いを浮かべたまま彼は玉座を立った。


 まだだ。
 まだ終わりではない。

 足りないのだ。
 「扉」を手に入れただけでは、まだ足りない。

 彼が「扉」の国を攻め堕としたのは、ほんの下準備だ。

 心に抱いてきた願いを、望みを叶えるための、わずかな一歩に過ぎない。

 その望みは、彼以外の誰も知らない。国の誰もが「扉」の国を堕としたことも、単なる国力の顕示と領土の拡大の為としか思っていないだろう。だが、彼が「扉」の国を攻めたのは、そんな下らない理由からなんかではない。

 しかし、彼は誰にも抱く願いを話す気はなかった。
 周囲にいる人間の誰一人にも心を開いたことはないのだから。

 そう生きてこなければ、彼は玉座に着くことはできなかった。それどころか、今この世界に生きていることもなかっただろう。
 そして王となった今も、自分がその危険に晒されていることを、彼はよく知っていた。


 確かなものなど、何一つない。解っているのは、自分の周りにいるのがどういう人間達か、ということだけ。

 
 決して悟られはしない。


 青年は玉座を振り返ることなく歩き出した。羽織った豪奢な長衣が翻る。

 
 もうすぐ叶う。

 「扉」は手に入れた。
 あと一つ。

 「扉」を開ける者を手に入れることが出来れば。

 誰にも邪魔はさせない。

 鏡のように磨かれた床を踏み鳴らす高い足音が、彼以外誰もいない広間に響いている。

 その音を頭の片隅に聞きながら、彼は笑みを消し、その瞳に強い決意を抱いた光を宿していた。


 それはすでに王者の風格。
 欲しいものは力ずくでも手に入れる。


 彼の願いは、いずれ世界中を混乱に陥れるだろう。
 それでも歩みを止めようとは思わない。
 たとえ誰に裏切られようとも、誰を裏切ろうとも。
 そして、すべてを失うとしても。


 世界は、ただ我が望みのために。
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