白の影 黒の光

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47

「街の中を見てみたい」


 カインに会いに行くことを決めた翌日、リオとサリアは街に出ていた。

 リオはこの世界に知り合いはいないので人目を気にすることはないが、サリアはそうではない。
 神殿の関係者であり、「扉」を開いたところを他の人間に見られていた彼女は、軍の関係者にどのように話が伝わっているのか分からなかったので、一応変装している。

 リオはそんな彼女を隠すように前に立って歩き、サリアは目深に布を被ってリオのすぐ後ろを歩きながら彼に道筋を案内していた。


 街は混乱から少しは回復してきているらしく、多少は人々の明るい表情が見られた。サリアはホッと安堵の息を吐き出し、前を歩くリオを見上げた。

 兵士らしき人物が側を通るたびに身を硬くしていた彼女に気付いたらしく、リオは兵士を見かけると自分の体を盾にして彼女を隠してくれている。

 気を抜けない状況なのに、やっぱり優しい人なんだ、とサリアは頬を緩ませた。


 アルスフォルトの生活に興味があるらしいリオを連れて、サリアは久しぶりに街の中をゆっくりと歩いた。
 ディオグランの支配下にはあるものの、店や商売はそれほど制限されていないらしく、人々は徐々に以前の生活を取り戻してきている。

 民の生活は、侵略される前とされた後、あまり違いが見られない。神殿へと出かけて行く人々の姿を見る限り、神を信仰することも制限されている訳ではないようだ。

 それならば、何故ディオグランはアルスフォルトを攻め落としたのだろうか。

 国が侵略されたあの日に国を離れたサリアには、まったく訳が分からなかった。

 人々が話す会話を盗み聞きしても、その混乱は増すばかりなのだ。


 王族は殺された。
 民の中にでた犠牲者は、あの夜の混乱の最中に命を落とした者だけ。
 大人しく従った者や、女子供、老人たちには比較的犠牲者が少ないようだった。


 アルスフォルトは王族よりも神殿に実権がある国だ。
 それならば神官たちに犠牲者が多いのかと思えば、民同様、抵抗しなかった者には危害が加えられていないらしい。これまで通り神を信仰し、神殿の中で静かに暮らしている。

 カインも多少行動に監視や制限がついているものの、普段と同じ生活をしているという話を聞いて、リオとサリアは驚いていた。

「カインというのはこの国で一番偉い立場の者なのだろう」

「そうです。でも、おかしな話ですよね。国を完全に乗っ取りたいのなら一番初めに王族ではなくて神殿を攻めるべきなのに……」

「しかも不自由はあるだろうが今までと変わらない生活をしている。そのディオグランという国の王は何を考えているんだ?」

「分かりません。でも……」

「でも、なんだ?」

 リオの問いに、サリアは戸惑いながら答えた。

「もしかしたら、ディオグラン国王の目的はアルスフォルトではないのかもしれません」


 国自体が目的なのではない。
 リオもその考えには同意していた。

 武力による圧力もあるのだろうが、それにしても国の中枢である神殿を放置しすぎているように思う。


 ならば、目的は国ではない。

 一体ディオグランは何をしたいのか、二人にはさっぱり分からなかった。

 だが、神殿が今まで通り機能しているのであれば、二人にとっては好都合であった。

 カインに会える機会があるからだ。

 一週間に一回、カインは人々に神の教えを説く講和を行っている。どうやらそれも変わらず行われているようで、そのときを狙えばカインと話ができる可能性が高いのだ。

 とにかく少しでも行動しないと、前には進まない。

 すぐに確信に触れることが出来るなどという甘い考えは持っていないが、それでもカインと話が出来れば、分かることもたくさんあるはずだ。


 二人はさっそく、二日後に開かれるその講和に潜り込むことを決めた。
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