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● 平和町アニマル探偵団 --- クリスマスの奇跡のお話。後編 ●

 サンタさん。

 ボク、お願いがあります。

 これから先、ずっとプレゼントなしでもいいです。

 一度だけでいいから、

 ミカちゃんと話がしたい。





 今日もチラチラと灰色の空から雪が落ちてる。

 ボクはブルッと身震いして目を覚ました。
 寝起きでぼんやりしながらも、ボクは違和感を感じていた。

 何か、いつもと視界が違う……?

 首を捻りながら取りあえず伸びをしようと前足を持ち上げた。
 前足が視界を横切り……、ボクは違和感の正体を知った。

 前……足じゃない。
 手だ。……五本指の。

 しばらくボクはポカンとそれを見つめて……。

「え……ええぇぇぇっ!?」

 思わず叫んでいた。


 それから数分後、ボクはママがお化粧するときに使う鏡台の前に座っていた。
 大きな鏡をまじまじと覗き込み、自分の姿を確認してみる。

「目と鼻と口の数はおんなじ。あれ、耳が顔の横に付いてる。そういえば、人間はそうなんだっけ……。何だか鼻もよく利かないなぁ……」

 ボクは茶色い髪の毛をつまんだり顔を触ったりして首を傾げた。
 鼻も利かないし、視線がいつもより高くて落ち着かない。
 しかも、ミカちゃんよりずっと年下みたいだ。よく学校の帰りに撫でてくれる小学生の子達と同じくらいかな。
 気づいた時から着ている洋服も何だか窮屈だなぁ……。

 そわそわと洋服を探ってみると、ズボンのポケットの中に何かが入っていることに気づいた。

「何だろ……」

 ポケットから引っ張り出してみると、手のひらにすっぽり収まる小さなカードだ。
 人間の文字なんか読めないはずなのに、すらすらと読み上げた。

「えと……『いつもいい子のタルトくんにプレゼントだよ。人間の姿でいられるのは午後五時までだからきをつけてね。……サンタより』」

 読み終えてまたしばし沈黙。

「ええぇぇぇっ!?」

 ボクは二度目の叫び声を上げた……。



 ラッキーなことに、今はパパもママも出掛けてる。
 ボクはこっそり家を出た。


 ウキウキしながらキョロキョロ辺りを見回してみる。

 これが人間の世界なんだ……。
 ボクはこっそり感動して、サンタさんに感謝した。

 やっぱりサンタさんはいたんだ!! しかも、ボクの願いを叶えてくれた!!

 早く、ミカちゃんと話がしたい。


 ボクは浮かれた足取りでミカちゃんを探し始めた。
 今日はクリスマスだ。
 ミカちゃんはこの間一緒だった男の人と会ってるはず。たしか、待ち合わせは駅の大時計の前だったな……。

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと近所の公園に差し掛かった。
 なんとなく目を向けると、見知った人の姿を見つけて足が止まった。

 ベンチに腰掛け、浮かない顔でため息をついている。

 ミカちゃんだ。

 ボクはこっそり近づいてみた。ミカちゃんは気づいてないみたい。
 ふと公園の時計に目をやると、時間は午後二時半。
 わ、もう行かないと待ち合わせに間に合わない!!

 ボクはビックリしてミカちゃんに声をかけようとした。そして、気づいた。

 今のボクは人間の姿。ボクはミカちゃんを知ってるけど、ミカちゃんはこの姿のボクを知らない。


 うーん、と頭を抱えたあと、ボクはうん、と一つ頷いて、トテトテとミカちゃんに近づいた。


「ど、どうしたの?」

 思いきって声をかけた。
 ミカちゃんがビックリして見上げてくる。
 ボクもビックリしたけど、何とか怪しまれないように心配そうな表情をした。

「ミ……じゃなかった、お姉さん、さっきからずっとため息ついてるけど……具合が悪いの?」

 ボクの言葉にミカちゃんはもっとビックリしてたけど、そのあとにっこり笑った。

「具合が悪いんじゃないのよ、ありがとう」
「じゃあ、どうしたの?」
「……友達とね、待ち合わせしてるんだけど……あんまり行きたくないの」

 ミカちゃんはちょっと俯いて言った。
 ボクは首をかしげて隣にちょこんと座った。

「遊びたくないの? 友達、待ってるんでしょ?」
「そうだね……」
「その友達って……お姉さんのコイビト?」
「えっ」

 ボクが何気なく訊ねると、ミカちゃんは真っ赤になった。でも、照れながら小さく頷いた。

「じゃあ早く行ってあげないとかわいそうだよ」

 ボクがそう言うと、ミカちゃんは困ったように笑った。

「いいんだ、もう……」
「何で?」
「もうすぐね、彼、遠いところに引っ越しちゃうの。だから、もう会えなくなるから、もういいんだ」

 ボクは首を傾げた。

「もう会えないの?」
「うん……」
「一生? 一生会えないの?」
「え?」
「もう絶対会えないんじゃないよね。会いたくなったら会いに行けばいいんだよ」

 ボクの言葉に、ミカちゃんは目を見開いた。

「だって死んじゃったんじゃないんだもん。生きてればまた会えるよ。寂しくなったら電話もできるし、手紙も出せるよ」

 ミカちゃんはじっとボクの言葉を聞いていた。

 やっぱり、あの人と離れるのが辛くて元気がなかったんだね。
 ボクはミカちゃんに元気になってほしくて精一杯笑った。

 そのとき、遠くから鐘の音が響いた。

 ミカちゃんがハッとして立ち上がった。

「……三時になっちゃったね。早く行ってあげなよ」
「えっ?」
「きっとその人、待っててくれてるよ」

 ちょっと考えて、……ミカちゃんは笑った。
 まるで、花みたいに。

「……ありがとう」

 そして、ミカちゃんは急いで走っていった。

「……大丈夫だよ。ミカちゃん」

 ボクの目には、見えないはずなのに幸せそうに笑うミカちゃんの笑顔が浮かんでいた。

 

 結局そのあと、ボクは元の姿に戻るまで公園のベンチに座っていた。

 願いは叶った。

 ボクは何だか嬉しかった。だって、ミカちゃんと話をしたんだ。


 その日の夜、元の姿に戻ったボクはミカちゃんの膝の上にいた。
 ボクを撫でながら、ミカちゃんはあの人の話を聞かせてくれた。



 優しく更けていく夜の中、遠くで鈴の音を聞いた気がした。
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