●● 平和町アニマル探偵団 --- つながるお話。 side. パック ●●
10月14日・PM11:00。
……寒い。
ぶるっと身震いして目を開けると、そこは知らない場所だった。
……何でオレこんなトコにいるんだ?
寝起きの頭でぼんやり考えたが、全く分からない。
とりあえず起き上がろうとして、足に鋭い痛みが走った。
あれ、オレ何でケガしてるんだ?
首をかしげたとき、カッと視界が真っ白になった。
霞んだ視界に映った丸いライト。
それを見た瞬間にオレは全てを思い出した。
ああ、そうだ。自転車にぶつかったんだ。
そこまで考えて、オレの意識は再び闇に沈んだ。
10月15日・AM9:00。
なんだろう。
すごくフワフワでいい匂いがする。しかも、何だかあったかいぞ。
ゆるゆると目を開けると、そこは知らない場所。
最近多いな、このパターン……。
ふわ、とあくびをすると、無性に脚が痒くなった。
足を掻こうとして、首に変なものが巻かれていることに気づいた。
「うわ、何だよコレ」
手や足を使ってはずそうとしたが、まったくはずれる気配ナシ。
それでも諦めずに奮闘しているオレは、側に寄ってくる気配に気づいていなかった。
「はは、元気だなぁ」
突然人間の声が聞こえたかと思ったら、オレの真上に影が落ちた。
驚いて顔を上げると、真っ白な服を着た若い人間の男が一人。
警戒して体を後ろに後退させると、いくらも行かないうちにガチャンという耳障りな音がして体が止まった。
首に巻かれたものに気をとられていたオレは、ようやく自分が天井のない檻の中にいることに気づいた。
マズったな。捕まったのか。
長年の野良生活で、人間に捕まったらどうなるのか分かっていたオレは、素早く逃げ出そうとした。
幸い、檻に天井はないし、高さもそれほど高くない。簡単に飛び越せるはずだ。
そう思って立ち上がった瞬間、脚をひどい痛みが襲った。
そうだ、脚怪我したんだった。
へなへなと情けなく座り込んだオレに、男は慌てて声をかけた。
「まだ動いちゃダメだよ。脚を怪我してるんだからね」
「くそっ、ここから出せよ!! オレをどうする気だ!!」
……と威嚇するものの、人間にオレの言葉が分かるはずもなく。
「これだけ元気ならごはんも食べられるかな? 今用意してくるからね」
男はのほほんと部屋を出ていった。
「……何だよ、あいつは」
茫然とするオレに、別の方から声がかかった。
「パックお兄ちゃん、パックお兄ちゃんだよね?」
「えっ?」
振り返ると、オレのいる檻から少し離れたところに別の小さな檻があった。ちゃんと天井のついたヤツだ。
その中にいたのは小さな子猫。オレはそいつに見覚えがあった。
「お前、イチの弟か?」
「うん、そうだよ。ミィっていうの。前に遊んでくれたパックお兄ちゃんだよね?」
「ああ、覚えてる。お前、なんでここにいるんだ?」
「ぼくもケガしたの。そしたらあの人間のお兄ちゃんが助けてくれたんだよ」
ニコニコと話すミィに、オレは首をかしげた。
「兄ちゃんたちはどうしたんだ? いつも一緒だっただろ?」
オレがそう聞くと、途端にミィはしょんぼりと肩を落とした。
「はぐれちゃったんだ……。兄ちゃんたちがどこにいるのか分からないの」
「迷子か。探してやりたいが、オレもこの状態だしなぁ……。あの人間が何を企んでいるのかもわからねぇし」
「あの人、いい人だよ。ぼくのケガ、治してくれたの」
ぴん、と耳を立ててミィは人間を弁護した。
その様子にオレは面食らった。
そうか、コイツはまだ小さいから、人間の怖さを知らないんだな。
コイツらが知ってる人間は、タルトのトコのミカちゃんとか商店街の奴らばかりだから、仕方ねーか。
オレはため息をついて、それ以上人間の話をするのをやめた。
10月16日・AM11:30。
その男を観察していて、わかったことがある。
そいつは「獣医」というらしい。つまりは、オレたち動物の医者だ。
なるほど、だからオレやミィを助けたのか。
しかし、だからと言って、オレたち野良を見返りなく助けるなんて、お人好しもいいトコだ。
まぁ、なんだ、ミィもなついてるし、メシもくれるし……悪い人間じゃないみたいだな。
こうなったら仕方がない。
怪我もしてるし、久し振りに暖かい寝床とメシにもありつけるし、しばらく様子を見てみるか。
オレは腹をくくって、満腹後の昼寝という、至福の時間を楽しむことにした。
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