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● 平和町アニマル探偵団 --- つながるお話。 side. クロスケ ●

 10月15日・AM10:30。


「……はぁ」

 らしくもない。

 俺は空に向かってため息をついた。
 理由は今俺の足元にうずくまっているこの白い小さな物体だ。
 小さな体を更に小さく丸めて、スヨスヨと平和な寝息を立てている子猫。

 なぜ俺が子猫と一緒にいるのかというと……。

 事の起こりは今から一時間前。


 10月15日・AM9:30。


「……なんだ?」

 悠々と空を飛んでいた俺は、とある木に仲間が多数集まっていることに気づいた。
 興味をそそられ、方向転換して木に近づいていく。
 俺に気づいた仲間の一羽が、あわてて俺を呼んだ。

「クロスケ、大変だ!!」
「どうした?」

 仲間の慌て振りに、俺は急いで飛んでいった。

 近づいていくと、俺に気づいた別の仲間が、俺をある木の枝まで連れて行った。

「いったい何があったんだ?」

 そう訊ねると、そいつは枝をクチバシで指した。

 細い木の枝の上には、小さな白い毛玉。

「……毛玉がどうかしたのか?」

「いくら鳥目だからって、それはないだろ、クロスケ」

 仲間が呆れたように言い、俺は改めて毛玉を見た。
 あ、動いた。毛玉じゃないのか。

「猫だよ」

 そう言われて、ようやく俺はそれがうずくまった猫だということに気づいた。
 いかんいかん。最近どうも目が……。
 またパックにからかわれるな。

「……で、何故こんなところに猫がいるんだ?」

「それがなぁ〜……」

 そいつは困ったように事情を説明した。

 どうやらそいつも何故この猫が木の上にいるのかは分からないらしい。
 気づいた時には猫がいて、降りられなくなっている猫をどうにかして降ろしてやろうとしたらしいが……。

「すっかり怯えてて、おれたちの言うことを聞いてくれないんだよ」

 代わる代わる色んなやつが猫に声をかけたらしいが、すっかり怯えきった猫は、彼らにまったく近づかないらしい。
 無理に近づいて驚かせてしまうと、猫が落ちてしまうかもしれない。
 困り果てていたところに俺が通りかかったというわけだ。

「それは困ったな。では、俺が話をしてみよう」

 そう言うと、仲間たちはあからさまにホッとしたようだった。
 助けてやりたいが、この状態を持て余してもいたのだろう。

 俺は苦笑いを浮かべて、少し離れた木の枝に止まった。

 うずくまっていた猫は、俺の気配に気づいて、少しだけ顔を上げた。

「ん……?」

 その猫の顔を見て、俺は首をかしげた。

 もしかして……。

「フゥ? イチの弟の」

 俺が名前を呼ぶと、猫は怯えながらもか細い声で応えた。

「……クロスケ兄ちゃん?」

「やはりフゥか」

 俺は驚いて少し近づいた。

 仲間たちはポカンとして俺たちを交互に見ている。

「なんだ、クロスケの知り合いか?」

「ああ」

 仲間の言葉に頷いてから、俺は改めてフゥに向き直った。

「フゥ、こんなところでどうしたんだ?」

「わかんない……」

 できるだけ優しく訊ねると、フゥは戸惑いながら言った。

「大きな犬に追いかけられたの。いっぱい走って逃げて……そしたら、ここにいたの」

 ううむ。犬に追いかけられて、無我夢中で逃げたら木に登ってしまった訳か。

「そうか……。それは怖い思いをしたな。よく頑張った。偉いぞ」

 そう褒めると、フゥは嬉しそうに笑った。

 しかしすぐに表情を曇らせた。

「でも、追いかけられてるときに兄ちゃんとミィとはぐれちゃったの。どうしよう……」

「そうか。ならば一緒に探しに行こう。もう犬も居なくなっているはずだ」

「……ほんと?」

「ああ、気配もしないしな」

「よかった」

「だから、一旦下に降りようか。大丈夫だ、俺たちが降ろしてやる」

「うん」

 犬がいなくなったことに安心したフゥは、素直に頷いた。
 カラスの仲間たちも一安心だ。


 それから俺たちは数羽連なって背中にフゥを乗せ、無事に地面に降ろした。

 騒動が一段落して、仲間たちは各々山に戻っていった。
 それを見送り、気づいたときには……。

 そして冒頭に戻ると言うわけだ。

 探すとは言ったものの、肝心のフゥが眠ってしまってはどうしようもない。

 しかし、よく寝てるな……。

 無理もないか。相当怖かったのだろう。

 仕方がない。
 もう少し、眠らせてやるとするか。

 俺は小さくため息をつき、体を休めるためにうずくまった。
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