Trip Travel 〜旅のお供はしゃべる犬〜

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  第一話 旅のお供はしゃべる犬? 2  

 玄関のドアを開けると、そこは知らない国でした。


 見渡す限りの草原と青空。

 そして、あたしは今年一番の間抜け顔。



「……は?」

 あれ? あたし、家まちがえたのかな。

 そう思ってくるりと振り返ると、見慣れた真鍮の門。玄関先に置いてある鉢植えも、毎日見ているもの。
 間違いない。あたしの家だ。

 うん、と頷いて、恐る恐るまた家の中を覗く。
 そこには。

 やっぱり青々とした草原。


「……何これ」

 いつの間にあたしの家は緑いっぱいになったんだろう。
 あたしがコンビニに行ってる間に、誰かがあたしの家を草原にしていったのかな。
 ……って、いやいや、ありえないし。


 待って待って待って、今のあたし、今までにないくらい混乱してる。
 落ち着いて、今までの行動を思い起こしてみよう。



 家から歩いて5分。
 あたしは行きつけのコンビニについて、晩ゴハンをカゴに放り込んでいった。

 お弁当とサラダ。今日はコンソメスープとヨーグルトも付けちゃおう。なんとなくオレンジジュースのペットボトルもカゴに入れた。


 会計を済ませて外に出ると、ひゅう、と冷たい風が吹いた。

 やだな、雨降りそう。


 あたしは早足でコンビニを後にした。


 ガサガサとうるさいコンビニの袋の音を聞きながら来た道を戻る。
 雨の気配に気づいて道行く人の足も速まっている。


 歩きなれた道、あたしの行動圏。

 迷子になんてならない。なるわけないじゃない。子供じゃないんだし。
 高校生にもなって、自分の住んでる街で迷子になるなんて、バカじゃないの。


 ……って思ってた5分前の自分を殴ってやりたい。


 あたしは頭を抱えて唸った。

 何これ。
 あたしの家、どこに行っちゃったの?


 どれくらいそうしていただろう。
 不意にあたしはある考えに至った。


「夢?」

 そうか、これは夢だ!! 夢に違いない。
 だって、こんなのありえない。現実のワケない。

「焦っちゃったよ、も〜」

 あたしはホッとして、苦笑いした。

「夢なら目が覚めたら家に戻ってるよね」


 あたしはぎゅっと目を瞑って、目が覚めるのを待った。


 1分。

 いやいや、そんなに早く覚めないでしょ。こんなリアルな夢見てるくらいなんだから、相当疲れているに違いない。

 5分。

 そろそろ目が覚めるかな。
 ていうか、あたしいつ寝たんだっけ。

 10分。

 そんなに疲れてたのかな、あたし。なんか全然目が覚めないんだけど。


 うーん、と首をひねるあたしの頬を、爽やかな風が撫でて行く。
 あぁ、気持ちいいなぁ。草原にいるみたい。

 そうか。あたしの目の前、草原じゃん。


 自分にツッコミを入れた拍子に、あたしは目を開けてしまった。


 青々とした緑の草原。
 目の前の風景は、まったく変わっていない。



「なんなの……」


 なんで。
 全然変わってない。
 どうして目が覚めないの。


「意味わかんない……」


 頭を抱えてうずくまったあたしの頭上を、突然強い風が吹き抜けて行った。

「うわっ」

 思わず目を瞑ったあたしの耳が、ギィ、と耳障りな音をとらえる。
 それが何の音かすぐに理解したあたしは、ハッと振り返った。

 風に揺られて、少しずつ閉まって行く玄関の扉。

 何だか嫌な予感がしたあたしは、慌てて扉に縋りつこうと体を起こした。……筈だった。

「ぎゃっ」

 女の子らしくない悲鳴を上げて、あたしは青臭い草の中に見事にダイブ。

 頭の上で聞こえた、無情にも扉の閉まる音。
 あたしはぼさぼさの髪の毛も草がくっついたままの制服もそのまま、勢いよく顔をあげた。



 そこに玄関の扉はなかった。


 見渡す限りの爽やかな草原が、どこまでも続いていた。



 玄関の扉を閉めても、そこは知らない国でした。
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