Trip Travel 〜旅のお供はしゃべる犬〜

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  第一話 旅のお供はしゃべる犬? 5  

 満腹になった犬は、あたしの前できちんとお行儀よくお座りをした。

 改まった様子に、あたしも何故か正座してしまった。

「改めて礼を言わせてくれ。助かった。ありがとう。とてもうまかった。こんなうまい料理は初めてだ」

「ああ、いえいえ。あたしが作ったんじゃないんだけど」

「いや、どこの誰かも分からない俺に、食べ物を恵んでくれるなんて、あんたは親切だな」

「いやいや、そんな……」


 お座りした犬と、正座した人間が向かい合って、ぺこぺこと頭を下げあっている。

 傍から見たら、なんてシュールな光景。

 混乱しているあたしは、流されるまま犬との会話を続けていた。


「ところであんた、こんなところで何しているんだ? 見たことない服装だが」

 この一言で、あたしは一気に現実に引き戻された。

 そうだ、今はこんなことをしている場合じゃない!! 家に帰る方法を考えなくちゃ!!
 取りあえず道を聞いて……。

 そこであたしはふと気付いた。

 目の前にいるのは、しゃべる犬だ。
 こいつは一体何だ。物の怪か。

 帰り道を聞いて、果たして無事に帰れるのか。

 でもお弁当あげたらお礼を言ってくれたし、あたしを食べる様子も見せないし。もしかしたら、安全かも。
 いやいや、犬がしゃべるってだけでおかしいでしょ。ここは何事もなかったかのように別れたほうがいいかも……。

 じーっと犬を見つめながらループするあたしの思考。見つめられている犬からしたら、相当鬼気迫って見えたらしく、ずず、と少しだけ後ずさりをした。


 安全かどうか。そんなこと、あたしに分かるわけない。だとしたら、もう覚悟を決めて何か行動を起こすしかない。

 ここは家の近所ではないことくらいは分かる。こんな広々とした草原、住宅地のあたしの住む街で見たことがない。

 だったら、ここはどこなのか。
 頼れるのは、目の前のこの犬だけ。

 物の怪だとしても、あたしはこの犬を頼るしかないんだ。


 覚悟を決めた。

 あたしは、意を決して、犬に向き直った。


 突然居住まいを正したあたしを見て、犬も何か緊張感のようなものを感じたのか、瞬きを繰り返した。

「お聞きしたいことがあります」

 想像よりも重々しい声が出てしまった。

「な、なんだ」

 犬は、ごく、と息をのんだ。まるで世間を揺るがす重大発言をするかのような雰囲気になってしまったが、あたしが聞きたいことはとても簡単なことだった。


「ここは一体どこなんですか」

「……は?」

「あたしの家は、どこにあるんでしょうか」

 さっきのあたしみたいに、目の前の犬はポカンとあたしを見つめている。質問の意味が分かっていないみたいだ。
 あたしは、もっと分かりやすく言ってみた。

「平たく言うと、あたしは迷子になっています」

 至極簡単なあたしの説明に、犬はパカッと口を開いた。そんなに大きく開いたら、アゴが外れちゃうんじゃ……。

 的外れな心配をしているあたしに、犬は前脚であたしを指差しながら、訊ねた。ちょっと、指差さないでよ。失礼ね。

「……あんた、迷子なのか?」

 あたしはこくっと頷いた。

 犬はあたしを指差していた前脚を顎に持って行って、ううんと唸った。

「あんたみたいな服を着ている村を見たことないが……。あんたの住んでいた村って、どこだ?」

 訊ねられるまま、あたしは住所を答えた。住所を聞いているうちに、だんだんと犬が怪訝そうな表情になっていく。
 あたし、なんかおかしなこと言った? 住所を答えただけなんだけど。

「聞いたことないな、そんな村」

 犬の答えに、あたしは絶望的な気持ちになった。
 あたしの住む町の名前を聞いたことがないのなら、ここが何県か分かれば、自力で家に帰ることができるかどうか分かるかもしれない。
 あたしはそう思って、犬に聞いてみた。

「じゃあ、ここはどこなんですか?」

「ここか? ここは、ヤグ族の村の外れだ」

「……は?」

 あたしは、今まで聞いたことのない単語を聞いた。そして、最悪の事態を想定した。
 もしかしたら。県外どころか。

「……国外?」
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