Trip Travel 〜旅のお供はしゃべる犬〜

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  第一話 旅のお供はしゃべる犬? 7  

 案内された犬の家は、まるで人間が住んでいるかのようにしっかりとした造りの家。

 良かった、犬小屋じゃないんだ。もし犬小屋だったら、あたし寝る場所ないじゃん。犬を枕にしなくてもよさそう。

「さぁ、入れ」

 犬は器用に前脚でドアノブを掴み、ドアを開けた。
 中は灯りが付いていなくて、真っ暗だ。

「おじゃましまーす……」

 あたしは恐る恐る家の中に入った。木の床がぎし、と音をたてる。
 きょろきょろと見回すあたしの横を、ランプをくわえた犬が通り過ぎた。

 そういえば、犬がどうやってランプに火をつけるんだろう。ライターなんてあるわけないし、マッチ……は無理よね。

 興味しんしん、犬の行動を観察していると、テーブルに置いたランプに顔を近づけている。

 犬がふうっと息を吹きかけると、ポッとランプに小さな灯がともった。


 え、嘘。何これ。どんな仕組みなの!?

 茫然としているあたしに、犬は不思議そうな顔をした。

「どうしたんだ、ぼーっとして。座ったらどうだ?」
「あ、はい。じゃなくて!!」

 
 一度腰掛けてから椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がったあたしに、犬は目をぱちくりさせた。

「どうかしたか」
「これ!! 何なの!! どうやって火をつけたの!?」

 ランプを指差したあたしに、さも当然というように犬が言った。

「どうやってって……アルジラのランプは息を吹きかければ火がつくようになってるじゃないか。まさか、知らないのか?」

 こくこくこく。
 首振り人形のように頷くあたしに、今度は犬が驚く番だ。

「アルジラのランプを知らない種族がいたなんて……」
「マッチとかライターを使わないで火をつけるなんて……」
「まっち? らいたー? なんだ、それは」
「マッチとライター、知らないの!?」
「聞いたこともない」

 あたしたちはお互いにポカンと見つめあってしまった。

 何、この違和感……。
 さすがのあたしでも、息を吹きかけるだけで火がつくランプなんてあるなら、ものすごい発明で有名になってることくらい分かる。
 アルジラって言ってたけど……。メーカーかな。聞いたことない名前。


 ここは、ホントに、地球? あたしの住んでる宇宙の星なの?


 足から力が抜けた。
 そのままあたしの体は、椅子にすとんとおさまった。

「……何これ」
「だから、アルジラのランプ……」
「そうじゃなくて!!」

 あたしは乱暴に犬の言葉をさえぎり、頭を抱えた。

 嫌な、非常に嫌な予感がする!!

 考えがぐるぐる頭の中を回ってる。あたしの容量じゃ処理しきれない量の情報で、頭がパンクしそうだ。
 
 考えないようにしようと決めた矢先に、どうしても知らなくてはいけないことができてしまった。
 だって、こんなのありえない。

 マンガとか、アニメとか。そんな世界じゃない。あたしが生きてるのは、現実のはずなのに。
 ときめくような出会いとか、お約束とか。そんなのない、毎日繰り返しのように時間が過ぎて行くのが、あたしの現実のはずなのに。

 なんか、そうじゃなくなった気がする!!
 どこに行ったの、あたしの現実は!!

 どくどくと、心臓がうるさく音をたてた。

 叫んだきり黙り込んだあたしを、犬が怪訝そうに見ているのが分かる。

 そりゃ怪しい人間に見えるだろう。そんなの構っていられない。ここがどこなのか知るほうが、あたしにとって重要なんだから。


 机に突っ伏したあたしは叫ぶように言った。

「ここは、ホントに地球なの!?」



 答えはとても単純だった。

「地球? なんだ、それは」


 ……まさか。まさかまさかまさか。

「まさかの……トリップ?」

 顔から血の気が引いた。


 おとぎ話のような世界が、現実に。
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