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● 平和町アニマル探偵団 --- *- 幸せの探し物のお話。後編 -* ●

「うーん」

 ボクは鼻先を突っ込んでいた食器棚から顔を出した。後ろにいたお姉さんに「ないみたい」と言うと、お姉さんは少しため息をついた。

「そう……」
「二階にはなかったぜ」

 手分けして二階を探していたパックとクロスケがすまなそうに戻ってきた。
 お姉さんはかがんでしょんぼりしてるボクらに笑いかけた。

「いいのよ。ありがとう、みんな」
「他に部屋はないのか? 屋根裏とか地下室とか」
「屋根裏部屋ならあったはずだけど……」

 ちょっと考えてお姉さんは言った。ボクたちはとりあえず屋根裏部屋に行ってみることにした。


 お姉さんが探しているのは、「ブローチ」。金色に小さな赤いお花の形の宝石が付いてるもので、お姉さんがとっても大切な人からもらったんだって言ってた。
 その人とお姉さんは結婚する約束をしてたんだけど、結婚する前にお姉さんは……。


「この上が屋根裏部屋よ」

 お姉さんは二階の廊下の突き当たりにある物置の扉を指さした。

「ここなら見たぜ。物置だろ?」
「この奥に階段があるのよ。隠し階段になっているの」

 お姉さんに言われるままに中を探すと、奥の壁の一部が引き戸になっていることに気づいた。
 引き戸を開けてみると細い階段が続いている。

「わぁ、すごいね。秘密基地みたい」

 ボクが目を輝かせてそう言うと、お姉さんは少し笑った。

「泥棒に入られても大丈夫なように屋根裏部屋に大事なものを隠したりしていたの」

 階段にはたくさんのクモの巣が張っていて、ボクたちはそれを避けたり払ったりしながら屋根裏に登った。

 屋根裏部屋は奥に小さな窓があるだけで何もないがらんとした部屋だった。

 何もないだけあって、探すのは簡単に終わった。やっぱりお姉さんの探し物は見つからない。

「みんな、もう充分よ。ありがとう」

 落ち込んでるボクたちの様子を見て、お姉さんは明るく言った。

「でもでも、それじゃあ天国にいけないよ。またずっと一人ぼっちになっちゃうよ。そんなの寂しいよ」
「……ありがとう。優しい子ね」

 黒い瞳を大きく見開いてからお姉さんは優しく泣きそうに笑ってボクを抱き締めてくれた。
 ボクは何だか胸がぎゅってなった。

「みんな本当にいい子たちね」

 そう褒められて、ボクもパックもクロスケも、恥ずかしくなってうつむいたりそっぽを向いたりした。

「諦めないで、もうちょっと探してみようよ」
「そうだぜ。あんた、随分長い間待ってたみたいだし、もうちょっとくらい待ってもいいだろ?」
「諦めることはいつでもできる」

 ボクたちは口々にお姉さんを引き止めた。

「いいえ、もう本当に……」

 お姉さんの決意は固いようで、ボクとクロスケはがっくりと肩を落とした。

 パックはしばらくボクたちとお姉さんを交互に見ていたが、やがて堪えきれなくなったのか、小走りに窓へと走った。

「パック?」

 ボクが首を傾げて呼び掛けると、パックは少しイライラしたようにボクたちに向かって怒鳴った。

「窓開ける。こんなじめじめしたトコにいるから後ろ向きな考えになるんだよ!!」

 パックは木枠に前足をかけて立ち上がった。乱暴に木製の窓を押すと、きしんだ音を立てて窓が開いた。
 屋根裏部屋中に太陽の明るい光が入ってきた。
 ずうっと暗いところで探していたから、太陽の光がとても眩しくて、目にしみてしまった。クロスケも目をしばしばさせている。

「どうだ!! これでちょっとは気分も明るくなっただろ?」
「眩しいよ、パック」

 ボクは何度かまばたきしてパックに抗議した。パックは満足そうに笑っている。

 ようやく明るさに目がなれてきた頃、ボクは改めて部屋を見回した。
 その時だ。

 ボクの視界の隅で何かがキラリと光った。

「あれ、何だろう」

 ボクが駆け出すと、パックとクロスケも近寄ってきた。

 古い木の床には所々に穴や裂け目ができている。ボクはキラリと光った場所を覗きこんだ。裂け目の中に何かが落ちている。

 前足で引っ掻いてみたけど、上手く取れない。するとクロスケがクチバシを裂け目に伸ばした。

「取れたぞ」

 顔を上げたクロスケは取り出したものをころん、と床に転がした。

「……あっ!!」

 ボクたちは一斉に声を上げた。

「お姉さん、これ……」

 ボクはあわててお姉さんを呼んだ。お姉さんは近寄って床を覗いた。

 金色の小さなブローチ。

 お姉さんは息をのんで、それを見つめた。
 みるみるお姉さんの目に涙が溢れてきた。

「これ……だよね」

 お姉さんは何も言わずに何度も頷いた。
 そっと手を伸ばして、優しくブローチをなでる。

「間違いないわ……。あの人が私にくれた、たったひとつの……」
「ほらな、諦めないでよかっただろ」

 パックは得意気に言った。クロスケもホッとしてるみたい。お姉さんは泣いているのに、ボクは嬉しくて仕方なかった。

「よかったね、お姉さん!!」
「ええ、本当にありがとう、みんな」

 お姉さんはボクたちに何度も頭を下げてお礼を言ってくれた。


 お姉さんはブローチをそっと手に取った。
 すると、お姉さんの体がキラキラと光って、ゆっくりと透けていった。
 驚いているボクたちにお姉さんはにっこりと笑いかけた。

「本当に……あなたたちと出会えてよかった。ありがとう。もう、絶対になくさないわ」

 お姉さんの姿は、ゆっくり空気に溶けていった。お姉さんはまた花のように笑った。

「ありがとう……」


 お姉さんは完全に見えなくなった。
 きっと、天国に行ったんだ。

 ボクたちは顔を見合わせた。

 パックもクロスケも、誇らしいような、嬉しそうな顔をしてる。

「よし、幽霊事件も解決したことだし、今日はもう帰るか」

 ボクは笑って頷いた。

 外に出ると、ボクは空を見上げた。きっとお姉さんは、あの空の向こうに行ったんだ。

 もう、幽霊は怖くない。
 ボクは、そう思った。
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