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● 平和町アニマル探偵団-*-消えたおやつを探せ!!のお話。-*-  ●

「……あれ? おかしいなぁ……」


 風が冷たい冬のある日。
 ボクは庭の隅っこの地面を掘り返していた。

 そこはボクの秘密の場所。
 お気に入りのおもちゃや大好きなおやつを隠しておく場所。

 いつもみたいにおもちゃを出して遊ぼうと思っていたボクは、隠しておいたおやつがなくなっていることに気づいた。
 少しだったらわからなかったかもしれないけど、なんと、全部なくなっていたんだ。

 埋めたのかなって思って掘ってみたけど、やっぱり見つからない。

「あれ? まだ残ってたはずなんだけどな」

 頭にハテナマークを浮かべながら首をかしげていると、頭の上から声が降ってきた。

「どうした、タルト。お前も何かなくなったのか?」

 上を見上げると、一羽の黒いカラス。クロスケだ。

「うん、隠しておいたおやつがなくなっちゃったんだ。……お前も、って、何かなくなったのボクだけじゃないの?」

 訊ねると、クロスケは電線から庭の柵まで降りてきてくれた。

「ああ。この辺りで物がなくなる騒ぎが起きてる。ほとんどが食べ物だな」
「そうなの? 泥棒さんかなぁ」
「人間の物は何も盗まれていないそうだ。なくなったのはほとんど飼い犬のエサやお前みたいに隠していたおやつばかりらしい」
「ボクみたいにおうちの中にいる犬ならなくなってもわからないけど……外に住んでる子は気づかなかったのかな?」
「聞いてみたら、ほとんどが散歩や出掛けているうちになくなっていたそうだ」

 ボクとクロスケが「物騒だねぇ」と話していると、パックがのんびり歩いてきて会話に加わった。パックも事情は知ってるみたい。

「なんか大変みたいだな。まぁオレは野良だから関係ないがな」
「関係なくないぞ。今度はタルトのおやつが盗まれたんだ」

 のほほんと話すパックにクロスケが少し怒ったように言った。
 ボクのおやつが盗まれた、と聞いて、パックはびっくりしていた。

「な、何ぃ!? オレのおやつが!?」
「いや、パックのではなくて、タルトの……」
「くっそー、どこのどいつだ!! オレのおやつに手を出すとはいい度胸だな!!」
「だから、タルトの……」
「いいんだ、クロスケ……。半分パックのみたいなものだから」

 ボクが遠くを見ながらクロスケを止めると、クロスケは同じように遠くを見て頷いた。

「そうか……。まあそうだろうな……」

 強く生きるよ、と頷いたところで、まだ怒りが収まらないパックがくるり、と振り返った。

「捜すぞ」
「何を?」

 ボクとクロスケが首をかしげると、パックはずいっと顔を近づけてきた。

「決まってるだろ、犯人だよ!!」
「ええっ」
「絶対見つけ出してやる!! 食べ物の恨みを思い知れ!!」

 ふはははっ、とパックが笑う隣で、ボクとクロスケはため息をついた。
 止めてもいつも通り聞かないんだろうな……。




 一時間後。
 やっぱり止めても聞かなかったパックとボクとクロスケは、ある家の前に来ていた。
 この家はまだなにも盗まれていない。
 この辺りの家は大体被害にあっているから、次に狙われるのはこの家だ、というのはクロスケの推理。

 ボクたちは少し離れた曲がり角に隠れて家の様子を伺っていた。
 クロスケは空から、パックは裏口、ボクは玄関。

 しばらくすると、その家の子が飼い主さんと一緒に出てきた。散歩に行くみたいだ。


 さらに数分たって、裏口からパックの怒鳴り声が聞こえてきた。

 ボクはあわててパックのところに向かった。


 裏口に着くと、ボクは庭の隅でパックとクロスケに囲まれて震えている茶色いモコモコした物に気づいた。
 あれが犯人?

 首をかしげているボクに気づいたパックは、誇らしげに胸を張った。

「来たか、タルト。割と簡単だったな」
「捕まえたんだね」
「ああ。家のやつらが出掛けたのを見計らって忍び込んできやがったんだ」
「予想が当たったね。すごいよ、クロスケ」
「いや、被害がなかったのはここだけだったからな」

 ボクが褒めると、クロスケはそっぽを向いた。照れてるみたい。

 ボクたちは改めて犯人を見下ろした。
 少し落ち着いたみたいで、顔を上げてる。

 小さな猫。

 茶色い毛並みの、まだ子供かな。もしかしたら、ボクより年下かも。


 その子猫の名前はイチ。まだ生後半年。やっぱりボクより年下だった。
 イチはびくびくしながらボクたちに事情を話してくれた。


 三ヶ月前、イチと兄弟たちはねぐらに帰る途中にお母さんとはぐれてしまったそうだ。
 それから兄弟たちはお母さんを探しながら力を合わせて生きてきたんだ。

 物を盗むのはとてもいけないことだけど、小さな子供たちだけで生きてきたんだ。いけないことだって知らなくても仕方ないよね……。

 ちらりとパックとクロスケを見てみると、ふたりとも怒るに怒れないみたい。
 ボクはイチに目線を合わせた。

「小さいのに、えらかったね。でも、黙って持って行っちゃうのはいけないことなんだよ」
「ごめんなさい……。お腹がすいて……」

 しょんぼりしているイチを見て、ボクはいいことを思いついた。
 パックとクロスケを見上げてみる。

「ねぇ、マチばあちゃんに聞いてみたらどうかな」

 マチばあちゃんは商店街に住んでる中でも一番の古株。もしかしたらイチのお母さんのことを何か知ってるかも!!

 ボクの話に、パックとクロスケも頷いてくれた。
 きょとんとしてるイチを連れて、ボクたちは商店街に向かった。



 商店街でマチばあちゃんに事情を話すと、マチばあちゃんのところに子供とはぐれた、と相談に来た猫がいたことがわかった。
 どうやらその猫がイチたちのお母さんらしい。

 またマチばあちゃんのところに来る、と言っていたので、ボクたちはイチをマチばあちゃんに預けて帰ることにした。

「タルトお兄ちゃん、パックお兄ちゃん、クロスケお兄ちゃん、ありがとう」

 帰るときにイチは嬉しそうにお礼を言ってくれた。 ボクたちはまた会う約束をして、商店街を後にした。



 パックたちとも別れて家に帰ったボクは、ママにたくさん怒られてしまった。
 しまった、掘り返した庭の穴を埋めるの忘れちゃった……。

 でも、新しい友達もできたし、怒られてもいいや。
 イチたちとまた会う日が楽しみだな!!

 ボクはうきうきしながらそう思った。
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