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● 平和町アニマル探偵団 -*- 意地っ張りと仲直りのお話。 -*-  ●

 ピコピコ動く長い耳。
 どんぐりみたいな目。
 マシュマロみたいなまあるいしっぽ。
 毛並みはモコモコ真っ白。
 
「……で、そこでソイツに言ったわけよ……」

 それは、寂しがりやの愛らしい生き物。


「『てやんでぃ、オイラをナメると痛い目見るぜ!!』ってな!!」

 愛らしい…………筈。

 ボクの前には一羽のウサギ。
 なんでかボクたちは向かい合って座り、さっきから延々彼の「武勇伝」を聞かされてる。

 きょとんとしてると、彼はほっぺたを膨らませた。
「……おいタルト、ちゃんと聞いてんのか?」

 じろりと睨まれ、ボクはあわてて頷いた。

「聞いてる、聞いてるよ。トムくん」

 
 ボクと彼――ウサギのトムくんが出会ったのはほんの一時間前。
 庭でお昼寝をしていたボクのところに、お腹を空かせたトムくんが迷いこんできたんだ。
 ボクが余ってたドッグフードを分けてあげたら、トムくんはお礼に延々と武勇伝を聞かせてくれた、というわけ。

 さすがに一時間は長いなぁ。最初のほうの話なんてもう覚えてないや。

「ようし、じゃあ次は……」

 まだあるの!?
 茫然としたボクに、ようやく救いの手が差し伸べられた。

「おーい、タルト。遊びに行こうぜ……って」

 やって来たパックとクロスケは、ボクの前にちょこんと座っているトムくんを見て、目を丸くした。

「へぇ、ウサギか」
「こんなところにいるとは、珍しいな」
「なっ、なんだおまえら!! やんのか、コラッ」

 二人がまじまじと観察していると、トムくんは外見に似合わない言葉遣いで威嚇した。二人は顔を見合わせて、それからパックがボクに訊ねた。

「ここらでは見ない顔だな。タルト、友達なのか?」
「うん、さっき知り合ったんだ」

 ボクは二人に今までの経緯を話した。
 話を聞いたパックは、呆れたように言った。

「何だ、行き倒れか」
「そ、その言い方はやめろっ」
「しかし、なぜ行き倒れに?」

 トムくんの抗議を聞いているのかいないのか、クロスケが訊ねた。
 トムくんはそっぽを向いて遠い目をした。

「オイラはさすらいの旅の真っ最中で、その日暮らしの生活をしているのさ……。今は自分の在るべき場所を探して放浪中なんだ」
「何だ、迷子か」
「そそそそ、その言い方はやめろーーっ!!」

 さらりと言ったパックに、トムくんは顔を真っ赤にした。
 そっかぁ、トムくん迷子だったんだ……。

「それなら早く言ってくれればよかったのに」
「だ、だからオイラは断じて迷子じゃないっ」

 慌てたトムくんに構わず、ボクはのほほんと言った。

「ボクたちがお家まで送って行ってあげるよ」
「オレも付き合うぜ。ヒマだしな」
「俺も構わないぞ」
「ひ、ひとの話を聞けーーっ!!」


 

 そして十分後、なんでかグッタリしてるトムくんとボクたちは、キョロキョロ辺りを見回しながら川原の土手を歩いていた。

「ホントにこっちなのかぁ?」

 胡散臭そうにパックが背中を振り向いた。
 パックの背中に乗ったトムくんは、曖昧に頷いた。

「あー、うん、こっちのような気がする」
「お前帰る気あんのか?」
「…………うっ」

 ジロッとパックに睨まれたトムくんは、言葉に詰まった。
 たしかに、さっきからトムくんの言う通りに歩いているけど、さっぱり近づいている気がしない。

「ねえトムくん。もしかして……帰りたくない理由でもあるの?」

 そう訊ねると、トムくんの長い耳がピクッと動いた。
 ……図星かな。


「誰かとケンカでもしたの?」

 またまた長い耳がピクッ。
 ……今日のボクは冴えてるみたい。

「そっか、帰りづらいんだね」
「……」

 プイッとそっぽを向いたトムくんは小さな声で言った。

「……アイツが悪いんだ」
「アイツって?」

 訊ねると、トムくんはちょっと迷ってからさっきよりもっと小さい声で言った。

「……ベル。オイラの友達」

 トムくんはポツリポツリと話し出した。

 ベルくんはトムくんの親友で、同じウサギの子。
 トムくんとベルくんがささいなことで口喧嘩になったのが事の始まり。
 怒ったトムくんは小屋を飛び出して家出……と言うわけ。

「それはちょっと気まずいね」

 こくん、とトムくんは頷いた。
 
「早く謝った方がいいんじゃねーの?」
「先延ばしにすると、ますます謝りづらくなるぞ」

 パックとクロスケのもっともな話に、トムくんはしょんぼりとなった。

「分かってるけど……」

 煮え切らないトムくんに、ボクは提案をした。

「一人で謝るのが心細いなら、ボクも一緒に謝るよ」
「え?」

 トムくんはぽかんとボクを見上げた。

「……いいのか?」

 ためらいがちに確認したトムくんに、元気いっぱい頷いた。

「……へへっ、じゃあ帰るよ」

 トムくんはそう言って笑ってくれた。


 トムくんのお家は、小学校の飼育小屋だった。
 小屋の入り口でパックがトムくんを降ろすと、すぐにこっちに飛んできた小さい影があった。
 あの子がベルくんかな?
 トムくんを見ると、トムくんもボクを不安そうに見ていたので、ボクは頷いて彼の隣に並んだ。

「君がベルくん?」

 ボクが訊ねると、白黒模様の彼はうん、と頷いた。

「ボクの名前はタルト。トムくんの友達だよ。トムくんから話は聞いたんだけど、ケンカしちゃったんだね」

 また、小さく頷いた。

「トムくん、とっても後悔してるんだ。許してあげてくれる?」

 黙っていたベルくんは、しばらくしてポツリと言った。

「僕も、後悔してた。……ごめんね、トム」

 それを聞いたトムくんは、ぴょこん、とベルくんに駆け寄った。

「オイラもごめん」

 ぺこん、と耳を折って謝るトムくんに、ベルくんは照れ臭そうに笑っていた。


 事件を無事解決したボクたちは、トムくんたちと別れて家に戻った。
 トムくんもベルくんも笑ってた。パックとクロスケも嬉しそうだった。
 ……えへへ、なんだか心がポワポワする。

 その日ずっと、ボクはとっても幸せな気持ちだった。
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