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● 平和町アニマル探偵団 -*-コワモテなかよし大作戦!!前編-*-  ●

 それは、いつもとちょっと違う風景。

 軽い足取りで歩くボクは、嬉しくなって隣を見上げた。
 隣を歩くミカちゃんは、ボクと目が合うとにっこり笑ってくれた。
 ボクはますます嬉しくなって、走りたくなった。


 今日は日曜日。ミカちゃんの学校はお休みだ。
 だから、今日はいつもの散歩とちょっと違う。

 今にも走り出しそうなボクを見て、ミカちゃんはまた笑った。

「楽しみね、タルト」

 ボクは人間の言葉をしゃべれないから、かわりに「わん」と鳴いた。


 しばらく歩いて、目的地に着いた。
 目の前の大きな木の看板には、人間の文字が書いてある。読めないけど、前にミカちゃんが教えてくれた。
『ドッグラン』

 この中でなら、好きなだけ走り回っていいんだって!!

 受付を通ってミカちゃんと広場に出ると、芝生いっぱいのそこにはもうたくさんの犬が来ていた。
 わぁ、見たことない種類の犬がいっぱいだ。
 このドッグランに来たのは初めて。みんなにあいさつしなくちゃ!!

 ボクははりきって走り回ってる犬たちのところに駆け寄った。

「はじめまして。ボク、タルトって言うんだ。仲良くしてね」

 そう言うと、みんな近寄ってきてくれた。

 全員にあいさつを済ませてからみんなで走り回っていると、また違う犬が入ってきた。
 新しいお友達かな?

 くるりと振り向いたボクは、みんなが一斉に静かになったことに気がついた。

「どうしたの?」

 隣にいたミニチュアダックスのモールに訊ねると、小声で答えてくれた。

「彼はこのドッグランのボス、シェパードのルイズさんだよ。タルトもあいさつしておいたほうがいいよ」

 ボクはモールの言葉に従って悠然と芝生に寝転ぶルイズのところに行った。彼はちらりとボクを横目で見上げただけで、立ち上がらない。

「はじめまして。ボクはタルト。よろしくね」

 にっこりとあいさつしたのに、ルイズの返事は「ああ」の一言。ボクから視線を逸らすと、昼寝を始めてしまった。
 あ、あれ……?
 すごすごと戻っていったボクに、ドッグランの犬たちが集まってきた。

「まぁ、気にしない方がいいよ。ルイズさんていつもああなんだよ」

 慰めるようにモールに言われて、どんよりとした気分が少し上向いた。

「それより、駆けっこしようよ」

 周りの犬たちにも誘われて、ボクは元気よく頷いて彼らの後に続いた。

 しばらく遊んでからふとルイズを見ると、彼はぼんやりこちらを眺めていた。
 一緒に遊ばないのかな、と思ったボクは、ルイズを誘ってみた。

「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」
「え?」

 ルイズは真っ黒な鋭い瞳を丸くしてボクを見た。まるで、誘われるとは思ってなかった、みたいな表情に、ボクは首を傾げた。
 いつもみんなとあそんでるんじゃないのかな?

「いや、おれはいい」

 なんとなく焦ったようにルイズは断った。

「……何か見えるの?」

 ボクはルイズの隣に座った。ルイズは怪訝な顔をして、「何って?」と問い返してきた。

「だって、ぼんやり何か見てるから」

 ボクがそう言うと、ルイズはちょっとびっくりした顔をした。

「少し考え事をしていただけだ」

 バツが悪そうにそう言うルイズに、ボクは「ふーん」と返した。少しためらったあと、今度はルイズがボクに訊ねてきた。

「お前は、おれが怖くないのか?」
「何で?」
「何でって……」

 質問の意味がわからなくて首を傾げたボクに、ルイズはぽかんとした。

「いや、おれは大型犬だし、知らないうちにここのボスだとか言われてるし……」
「えっ、ルイズはボスじゃないの?」
「そんなことは知らん。いつのまにか周りが勝手にそう言っていただけで、おれはボスになりたいなんて一言も言っていない」

 ぶすっと機嫌悪くそう言うルイズに、ボクは何だかおかしくなった。

「怖くないよ」

 笑って言うと、ルイズも笑って「そうか」と言った。
 そりゃあ見た目はちょっと怖いけど、ルイズは怖い犬じゃない。でも、他の犬たちはルイズのところに来ない。みんなも話をしてみればいいのに……。そうしたら、もっと楽しくなるのに。


 それからボクたちはおしゃべりをして過ごした。他の犬たちはちらちらとこちらを見ているだけで近寄ってこない。

「みんなも一緒におしゃべりしようよ」

 ボクがそう言うと、ためらいながらモールが近寄ってきた。

「な……何の話してたの?」
「いろいろだよ。ルイズのご主人様のこととか、ボクのご主人様のこととか。……そうだ、モールのご主人様ってどんな人なの?」

 わいわいと会話が盛り上がるボクとモールの横で、ルイズは居心地が悪そうにしている。ボクはそれに気づいてルイズに話しかけた。

「ルイズのご主人様は小学生の男の子なんだよね」

 いきなり話しかけられたルイズは、びっくりしてたけど頷いた。

「あ、ああ。今五年生だ」
「モールのご主人様も小学生の男の子なんだって」
「そうなのか」
「は……はい。今三年生です」

 モールったら敬語になってる。そう言えばモールは面倒見が良さそうだな。モールとルイズを仲良しにすれば、ルイズもみんなの中に入っていけるよね。

 ようし、仲良し大作戦だ!!


 ……後編につづくよ!!
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